*ブラザーコンプレックス8*



*パラレル設定
*商社マンライル
*ユニオンは警察設定


許せる方のみど〜ぞ





ライルが、危険に晒されている。

根がネガティブ思考の俺は、最悪の事態しか想像できなくて
両手で顔を覆い崩れるように座り込んだ。





「ライルッ…!」

彼を失ったら、俺はきっと発狂してしまう。











何回目かの、交渉。
犯人は渋々ながらも交渉人が銀行内に入ることを許可した。

鍵を握る人物―支店長はどうやら今こちらに向かっているようで
犯人ははやる気持ちを抑えきれずウロウロと歩き回っている。

しばらくすると、両手を上げたスーツの男がドアの前にやってきた。

「…おい、おい!そこの女!」
「ひっ!」
「こっちに来い、早く!」
「あ、あ、あ…っ…」

拳銃をこちらに向け、彼女を手招きする男の前に咄嗟に割って入る。

「彼女は体調が悪い。俺じゃダメか」
「うるせぇ!女!早く来い!」
「あっ…」

クラリと、彼女は後ろに倒れ込んだ。
近くにいた職員が彼女を支える。
犯人は大袈裟に舌打ちをし、銃口を俺へと定める。

「使えねぇ!お前でいい、来い!」
「オーライ…」

俺のベルトを掴みながら、こめかみに銃口を当てドアへと歩く。
真ん中あたりまでで歩みを止め、交渉人を招き入れた。

間近で見てわかったが、コイツは長身の俺より身長があり、体もゴツイ。
ただのサラリーマンの俺に太刀打ちはできなそうだ。

一瞬、死が頭を過ぎる。

その後に浮かんだ幼い日の兄の泣き顔。
あんな顔は二度とさせたくないと、俺は緩く首を振った。



















「…ロックオンがこの場にいなくてよかったですね」
「え、えぇ…」
「運のない奴だな、コイツは」

防犯カメラの映像を横目に見ながら、淡々と午後の仕事をこなしていくCBのメンバー。

内心穏やかでないながらも、猛スピードで仕事を上げていく。
自分達とて、気になって仕方ないのだ。
正直、仕事などしている余裕もない。

それでも、ニールが抜けた穴を埋めようと躍起になって仕事をした。











一度、全員分の飲み物を差し入れると言って交渉人は去って行った。

皆のところに戻された俺は、助かったのか助かってないのかよくわからない気分になる。
ちょうど意識を取り戻したらしい彼女が不安げに見詰めてきたので、ウィンクを返してそっと耳打ちをした。

「君が起きたのを知ったらまた人質にされるかもしれない。気絶したままのフリをしてて」
「…う、うん…」
「…大丈夫、助かるよ」
「うん…」

なんでか知らないけれど、助かる気がするんだ。
ここで死ぬワケにはいかないという意地と、どこから湧いて来たのかわからない確信がある。

俺はニールが待つ家に、絶対に帰らないといけないんだ。





問題の支店長が現れてからも、状況はほとんど変化なく、時間だけが刻一刻と過ぎていく。







日が傾き夕方になった頃、業を煮やした犯人がついに窓に向かって発砲した。
響く悲鳴とガラスが弾ける音。

喚く犯人にもはや冷静さは微塵も感じられない。





「いい加減にしやがれぇえ!!言うこと聞かねぇとコイツら一人ずつブッ殺すぞ!!!」

怒鳴る犯人を落ち着かせようと宥める交渉人。
発砲の瞬間に支店長は一目散に逃げ出していた。

いい加減俺達の限界は近い。
早くどうにかしくれ、警察。

うんざりと溜息をついた矢先、犯人にいきなり腕を引っ張られた。

「うわ?!」
「まずはコイツだ!いいか、これでも要求を飲まねぇならコイツの頭が吹っ飛ぶぞ!」
「落ち着いて!わかった、わかったから、もう一度話を聞こう、確認だ。な?頼む」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ!」

心臓がこれまでにない程早く脈を打つ。
嫌な汗が背筋をダラダラ伝い落ちた。

落ち着け、大丈夫だ。

落ち着け落ち着け落ち着け
…兄さん、兄さん、ニール

ニール、たすけて



眉間に当たる鉄の塊に、初めて明確な恐怖を覚えた。











「大丈夫か、ロックオン」
「…ダメだ、全然冷静になれねぇ…狂っちまいそう」
「…深呼吸しろ」
「してる、さっきから」
「目をつぶれ…」
「嫌だね、だって嫌な光景が見えるんだ。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だライルッ…」

屋上で自身を抱きしめて震えるニールを、刹那は必死で宥めようとする。
時間が経つにつれて様子がおかしくなるニールに刹那は内心焦っていた。

「…どうすれば…」
「ロックオン!刹那!」
「アレルヤ…どうした」
「ロックオン、君の力が必要なんだ!今すぐ!」

ロックオンがノロノロと顔を上げ、緩く首を振る。

「ダメだ…今の俺にはなんもできねぇ」
「ライルを君が救うんだよ!ロックオン!!」
「…ッ、なん、だって?」
「グラハム・エーカーから連絡があった。百発百中の狙撃手を探していると」
「ティエリア」
「…俺が、ライルを…」
「ぐずぐずするな、ロックオン・ストラトス。一分一秒を争う。君は彼を見殺しにする気か」
「誰がっ!!行くぞ、どけ!」
「…やれやれ、だね」

ロックオンのサポートをするべく、三人も走り出した。











「だから最初から俺に協力を要請すりゃよかったんだ!」
「こんなにらちがあかないと思わなかったんだ。すまないと言っている」
「あぁクソッ…!あの時言うこと聞かないで飛び出してりゃよかった!」
「…はぁ、状況を説明するぞ。落ち着きたまえ」
「わかってる!」
「怒鳴るな!君の苛々が私の部下達に伝染する!!」
「っ…チッ」

グラハムが映像を見せながらつらつらと説明を開始する。
一方的に説明されるだけだったが、ニール達は全てを飲み込み消化し、状況整理と判断ができるまでに自身のコンディションを整えた。

「…それで、だ。有り難いことに犯人が狙撃できるポイントの窓を割ってくれた。
あのビルの屋上から狙撃をしてもらいたい」
「ターゲットをおびき出すには?」
「こちらの交渉人がポイントまで誘導する。タイミングは君に任せる」
「オーケイ…。一応聞くが、生死は?」
「ロックオンっ」

ニールの暗く鋭い視線には殺意さえ篭っていて、刹那は思わず名を呼ぶ。

「…できる限り生け捕りたい。が、そこは君の判断に任せる」
「わかった。行くぞ」
「ロックオン…ライルの前だ」
「………わかってるよ」

ライフルを抱えた彼の背中に、もう殺意は感じられなかった。













交渉人が何かを言うと、犯人が怒鳴り返す。
このやり取りももう何回目なのか…
俺は震える足を叱咤して立っていた。

いつ引き金が引かれるのかわからない恐怖から、段々と思考が麻痺していく。
呼吸が浅くなるのを感じて、深呼吸を繰り返した。

大丈夫大丈夫、助かる。
大丈夫だから、諦めたらダメだ。
生き残らないと、ニールが泣いてしまうだろ。

危なくなったら何がなんでもこの腕を振り払え。
今は自分だけが生き残ることを考えるんだ。

他人を犠牲にしてでも―?

思考回路がどんどんおかしくなっていく。

フラフラと右に移動した犯人に、俺もたたらを踏みながらついていった。

犯人が怒号をあげる。
そして、その指先に力が篭ったのを感じた瞬間





衝撃が俺の身体を襲った。















「狙い撃つぜぇえ!!」

放った弾丸は、割れたガラスを通過し犯人の左肩に着弾した。
悲鳴を上げる犯人がライルにぶつかりながら倒れ込む。

手から離れた拳銃に向かい、もう一発弾丸を打ち込んだ。





「…刹那、状況は」
『……終わったぞ、ロックオン。ライルは無事だ』
「…そ、か…そうか…よかった…」

くたりとコンクリートに伏せる。
伝わる冷たさにやっと脳みそが冷却されてきた。

ゆっくり立ち上がると同時に、アレルヤがやってくる。

「片付けときますから、早く行って下さい」
「…ん、サンキュ」
「ライルのこと、よろしくお願いしますね」
「言われなくても!」

転がるように階段を駆け降り、人混みを掻き分けて銀行に走り寄った。
その場で慌てた警官達に止められるが、遠くからグラハムが許可を出し警官達の手が離れる。



自分がたどり着く前に、ライルが中からフラフラと出てきたのを見て名前を叫んだ。

「ライル!!」
「っ…にぃ、る?」
「ライルッ!」

駆け寄って抱きしめる。
ぎゅうぎゅうと抱きしめれば、ライルの腕も背中に回った。

「兄さん、にい、さっ…」
「ライル…!よかった!ライル、ライルッ…」
「泣く、なよ?アンタの泣き顔、見たくないんだから」
「……ん、うん」

ズ、と鼻を啜った音に気付かれて、慌ててライルの肩に顔を埋めて隠す。

「…はぁ…今やっと…生きた心地がした…」



ライルの心音が、俺の冷えて固まった心を優しく溶かしていく。


















「え?!あ、あの狙撃兄さんがやったのか?!」

事情聴取やらなにやら面倒くさい事後処理をやっと終え、帰宅した。
そして聞かされた驚愕の事実。

確かに兄は幼少の頃からスポーツ射撃の賞を欲しいがまま手にしていたが
あんな場面でのスナイパーが、仮にも一般人の兄だったとは…

「……マジ、アンタ何者なの?」
「怖かった〜〜ぁ。失敗するなんて思わなかったけど、失敗したらどうしようかと思った〜〜〜」
「いやいや…だからなんで一般人のアンタが警察差し置いて…」
「あのクソ野郎には苦しんでもらいたいから、ちゃんと肩の骨で弾が止まるように調整したんだぜ?今頃アイツ地獄の痛みを味わって」
「兄さん!俺の質問に答えろよ!!」

正面から抱き込まれていた俺は、力づくでその腕から離れ怒鳴る。
きょとんとしたまま、離れた身体を引き戻された。

「〜っ、兄さん…」
「前に何回かさ、警察に恩を売ってたんだよ。あそこの指揮官とは変な縁があってな」
「指揮官と?」
「おかしな野郎だけど、人情深いし腕も良い。お前のことを知って、スナイパーには俺が適任だと思ってくれたらしい」
「……兄さん、俺が巻き込まれたの知ってたんだよな」
「あぁ。おかしくなっちまいそうだった。ライルが今ここにいることに…心から感謝してる」

そう言って、またピッタリと身体が重ねられた。
重なる心音に、同じ身体のような錯覚を覚える。

「…俺の方が、感謝してるよ。助けてくれてありがとう、兄さん…」





心の中の叫びを、ニールは聞いてくれていた。



あぁ、本当にこの人は
何回惚れ直させりゃ気が済むんだよ!



自分からは滅多にしないキスをニールに送る。
言うのは恥ずかしいから、唇にありったけの想いを篭めて。







助けてくれてありがとう。

愛してる、ニール。













----------------------------------------------------------------------------
ブラコンシリーズ第8弾!

解決です^^一件落着!!^^
ニールの狙撃を書きたかったのと、ライルが友人を庇って怖い目に遭うのが書きたかっただけです(万死)

スナイパ−な兄さんは反則なくらいカッコイイと思います!
もうライルはメロメロです^^
犯人の体内に弾が残るようにしたのは兄さんの残酷な一面です。
貫通しちゃった方がいいってどこぞで聞きました。


Return Next