*ブラザーコンプレックス3*



*パラレル設定
*商社マンライル


許せる方のみど〜ぞ





ピクリとも動かない塊を見下ろして、途方に暮れた。

これは、これはどうしたらいいんだ?

所謂…
飛んで火に入る夏の虫。
かもねぎ。

そんな感じなわけだ。

だが、どうしたらいいかわからない。
期待と不安が五分五分でせめぎあって頭が破裂しそうだ。

「……ライル」



俺の長年の想いは、報われたのか?













「お、おはよライル」
「………お、おは、よ、兄さん」

鍋の火を止め、ドアの前に立ち尽くすライルに歩み寄る。
ライルはビクリと肩を揺らして、半歩後退った。

「ライル」

名前を呼んで、俯く顔を両手で包む。





ライルは未来を見た。
前を向いて行くことを決めた。
怖がって尻込みして、ハッキリと何も告げられずにいた俺みたいにライルは弱くない。

卑怯な俺を、ライルは認めてくれた。



「ブラコン」なら、まだ父さん達に顔向け出来ただろ?
それじゃあ、今からライルに伝えたい想いでは、父さん達は怒るか?

俺達を心から愛してくれた父さん達が、俺達の選択を否定するわけねーだろ?



だから、伝える。

ライルが俺の手を引っ張ってくれた。
過去と現在に縋り付いている俺を、未来へと導いてくれた。



「ライルッ…!」

上げさせた顔は真っ赤で、戸惑いに揺れる瞳は潤んでいる。
こんな可愛い顔は、何年ぶりに見たんだろう。
いつもけだるそうに無表情を装ったライルを、ここまで崩せるのは俺しかいないんだ。



「愛してる」



深く、キスをした。













「本当の意味でデートだな…」
「っ、は?」
「だって、そうだろ?俺達今日から恋人だぜ!」

ライルはすぐさま嫌そうに顔をしかめたが、頬が赤い。

双子が並んで歩いていると目立って嫌だからと、ライルはいつも眼鏡やサングラスに深く帽子を被っていた。
俺も可愛いライルを人目に晒すのは気に食わないから良かったんだが

「わっ!兄さんっ?」
「今日は俺が被る」
「はぁ?返せよっ」

「恋人」というカテゴリーに入った当日、俺はライルを見せびらかしたくて仕方なかった。

「いいだろ、たまにはさ」
「……じゃあ、はい。眼鏡もかけろよな」
「オーケイ、ライル!」

通りすがる女性の視線がライルに向かう。

どうだ、俺のライルはカッコイイだろ?
可愛いだろ?

俺はコイツの兄貴で、しかも恋人なんだ!

いいだろう!





「…兄さん、何ニヤニヤしてんだよ」
「べっつにぃ?」
「気持ち悪ぃ」
「ライル、俺、すげー満たされた気分なんだ」

ずっと目の前にあって、でも手が出せなくて。
それはガラス越しに見ていた魅力的な宝物。
宝物は自分からガラスを割ってくれたんだ。

「ライルの1番特別な存在になれて、俺もう幸せっ」
「…外で変なこと言うな」
「誰も聞いちゃいねーよ」
「気持ちの問題だろ」
「それはお前が俺を特別だって意識してるから、恥ずかしいって思うんだろ?」
「……っ〜〜〜〜!!」

真っ赤になったライルから、脇腹に肘鉄がお見舞いされる。

「いってぇ…!」
「怒るぞ!」
「もう怒ってんだろ!」
「アンタが悪い」
「あぁ、俺が悪いな」
「……素直だな」
「だって幸せ過ぎて申し訳ないって感じだし〜」
「……アンタはいつも頭ん中が春でいいな…」
「そんなことないぜ?今朝やっと、桜が満開になったんだ」
「……そーかよ」



今まで散々悩んで迷って、ライルが言うように頭の中は春なんかじゃなく、むしろ真冬だった。
ライルと暮らしていてただただ幸せなのに、心の隅っこに穴が開いてそこから冷風が吹き込んできているような。

「幸せだなぁ、ホント」
「そのにやけ顔、なんとかならねぇ?」
「なんねぇなぁ」
「…早く映画館に…」
「暗闇ならいちゃいちゃ出来るもんな!」
「そういう意味じゃねぇよバカ!」

今までだってそりゃ大胆にベタついたが、今日からは心構えが違う。
兄弟の行き過ぎたスキンシップは、俺達には恋人の甘いスキンシップと認識される。

するりと肩を抱くと、昨日までなら思いっきり眉間に皺を寄せて振り払っていたライルの反応が
今日は頬を赤く染めて咎めるような視線を向けるだけだ。

「ひひひ、あーたまんねぇな」
「変な笑い方すんな」
「ライルはさっきから否定ばっかだな、お兄ちゃんちょっと悲しいぜ」
「……だって、外だし」

バツが悪そうに視線を落とすライルを見て、さすがに調子に乗り過ぎたと悟る。

「ごめんな、お前が嫌ならもうしねぇから」

ライルが勢いよく顔を上げた。
その表情に目を奪われる。

「っ…、っ、……ヤ、じゃ…ねーん、だけど…は、恥ずかしいだけだ。クソ、なんでだよ、昨日までは全然平気だったのに」

もっと上手く繕えたのに、とライルがぼやいた。
俺は帽子をライルに深く被せる。

「わ?な、なんだよ」
「…やっぱダメだ。お前のンな可愛い顔、他人に見せたくねー」
「なっ…」
「俺だってライルと同じだよ。昨日までは、ちゃんと兄さんでいられたんだけどな」
「…………今までもギリギリアウトだったろ」
「え?ギリギリセーフでなくてアウト?!」
「アウトだろどう見ても」
「マジか」
「マジだよ」

ライルに想いを気付かれてもいいと、いつしか吹っ切れてそう接してきたがライルはとっくに気付いていて様子を伺ってたのか。

もしくは、待っていた、のかもしれない。

俺が意思を明確にしてくるのを。





「……ずいぶん長いこと、俺損してたのかもなぁ」
「何が?」
「いや、今だからタイミングが良かったんだろな。お互い歳とったよなぁ」
「…嫌なこと言うなよ、学生時代のヤツらから続々と結婚の報告が届いてるっつのに…」
「結婚か、俺はガキん頃から嫁にするならライルしかいないと思ってたぜ?」
「……兄さん、兄さんて後ろ向きなのか前向きなのか時々わからなくなる」
「後ろ向きかな、どっちかっつーと」
「へぇ」

映画館のふかふかの席に座り、ライルが食べている長い焼き菓子を横から奪った。
非難の声は上がらない。
ライルは変わりに俺のコーヒーを啜る。

ライルの耳元に唇を寄せて、言った。



「帰りに、父さん達に報告に行こう」

ライルの身体が強張るのが、触れてもいないのにわかる。
そっとライルの手を握りしめた。

「大丈夫、あの人達が、俺達の選んだ未来を否定するはずねーよ」
「……そう、かな」
「そうさ、お前は知らないかもしんないけど、毎日母さんは言ってたぜ。
ニールとライルが仲良くできる未来がくるといいわね、ってさ」
「…でも、ずいぶん飛び越えた気がする」
「ハハ、そこら辺はご愛嬌ってことで」
「土下座は二人か」
「ん?」
「昨日、思ってた。父さん達に土下座しに行くのは俺か、二人か…」
「……土下座はいいんじゃねぇか?つか、なんでお前一人の選択があんだよ」
「だって、勘違いだったら…」
「っ…ん、んなワケねぇーだろぉっ!あんだけおおっぴらにしてたのに俺!」
「でも万が一にも勘違いがあるかもだろ!」
「ないない有り得ない!」
「なんでだよ!」
「万が一でもお前一人で行かせるか!!」
「っ…」

ブーーー、と。
大きな音が響く。

途端に暗くなる館内を見回して、口をつぐんだ。

「…続きは、父さん達の前でな」
「……おう」







感動的な家族のストーリーを見ながら、俺はライルの細い指の感触を味わった。















「なぁ、ライルぅ」

殊更甘い声を出して、ベッドに横たわるライルの背を撫でる。

「わ、くすぐってぇ」
「今日、一緒に寝ていいだろ?」

耳たぶを弄りながら囁くと、ライルはギシリと硬直した。
みるみるうちに白い肌は赤くなっていく。

「………む、無理」
「は?」
「だから、無理。無理デス」
「なんで?いいじゃねーか、一緒に寝るくらい!」
「なんか、だって、ほら、明日会社あるし」
「……やらしーことはしないから」
「……………………ホントに?」
「うわ、すげー間」
「とにかく、やっぱ無理。今日は無理」
「なんでだよー!やっと恋人になれたんだ、寝てくれよライルゥ!」
「うわああ無理無理無理!」
「…そうか、そんなに嫌がるってことは!期待してんのか!フリか、これ!」
「フッてねぇよ!!!」
「またまたぁ、恥ずかしがんなよ…俺、勉強しといたんだぜ…?」
「恐ろしいことを言うな!マジで無理だから!」
「ライル…」
「ひ、や、………だああああああ!!」
「ぐがっ」

鳩尾に綺麗に決まった蹴りで、ベッドから落ちた。
痛みで唸っていると、すぐさまライルは布団に包まる。

「ライル!本当になんもしねーから、な?!」
「信じらんねぇ」
「ライル〜」
「……来週まで、待ってよ」
「へ?」
「…………な、なんとか、来週までに…俺も、覚悟決めるから」
「…ライル」
「おやすみ、兄さん」
「……わかった。おやすみ、ライル。いい夢を」

布団の塊にキスをする。











焦らずに、ゆっくりやってけばいい。
ライルは逃げないんだ。





今日から俺達は

「ブラコン」のカテゴリーから少し外れて、「恋人」のカテゴリーに収まったんだから。













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完結です!!ドンドンパフパフー!!!

ライルは決めたら身体が勝手に動いちゃう行動派だけど、兄さんは考えて考えて考えてから行動しない(!)タイプだと思うんだ。
あの頃は良かったな〜とか、今が壊れるのが怖いとかで動けない子。
そんな兄さんの手を引っ張るのがライル!吹っ切れたライルは強い子だと思います^^

いや〜、当初続く予定がなかったものを続けてみるのは中々骨が折れますね^^;
でも楽しかった!!!私はハッピーエンドが好き!
二人ともこれでもかと幸せにしてやりたいんだもん!^^

気が向いたらオマケで初夜編も書こうかな(笑)


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