拍手お礼SS ニルライ *夏の暑さ*
「あつ…」
暑くてベッドから出たいのに、身体が鉛のように重くて動けない。
ぼやける視界と浅い呼吸に危機感を覚えた。
「……に、…る」
喉が渇いて声も掠れる。
ライルが今、こんな状態に陥っている理由は気温だった。
昨夜は風があり割と涼しい夜で、クーラーを消し窓を半分開けて就寝した。
今朝からグンと気温が上がったことなど、眠りの中のライルが気付くわけもなく。
「う…ぅー…」
怠い。
とにかく怠い。
目が回る、手足が痺れる。
ぼんやりと耳に入ってきたメロディに、動きにくい腕をさ迷わせ音の出所を掴んだ。
「……あ、」
『ライル?!どうした大丈夫か?!』
待ち望んだ声が、ぼやけて脳に届く。
ついに緊張の糸が切れたのか、勝手に涙が溢れ出した。
「…に、ぃ…」
『いい、喋ンな!もうちょっとで着くからな、待ってろよ!大丈夫だからな!』
「ん、」
『深呼吸だライル、落ち着いて、そうだ、よし、お利口さん』
「はあっ…は…」
ニールの声をぼんやりと聞きながら、言われた通りに深呼吸を繰り返す。
声の後ろにあった雑音が途切れると、ニールの舌打ちが響いた。
『チッ!赤になってんじゃねぇよっ』
「は…にー、さ…」
『あ、あぁ悪い、大丈夫だからな、ライル!』
次いで響くクラクション。
ライルはじわじわと暗くなる視界に抗えず、兄の声を聞きながら意識を手放した。
「……はぁ…」
「起きたか?」
ひんやりとして気持ちが良い。
いくらか視界もクリアになっていて、声の主に視線をやった。
「…にーさん」
「全く…びっくりさせんな…」
「…あちぃ…」
「だろうな。変な留守電入ってるから何事かと…こっちの心臓がやべぇよ…」
「おれ、どしたの…」
「…熱中症、だろ多分。こんなクソ暑いのにクーラーつけねぇで寝るからだ。 お前さん体温調節ヘタなんだから、注意してくれよ」
「きの、すずしか、た」
「今朝やたら気温上がったんだよ」
「…そ」
「…目眩は?」
「んー…多分、へいき」
「ほらコレ飲め」
「んー」
ニールに抱き抱えられ、ペットボトルに口をつける。
冷たい水が喉を通過するのが気持ち良くて、がっつくように飲み込んだ。
「コラコラ、零れるって」
「ふはっ、あ〜〜〜生き返ったぁ…」
「……はぁ、良かった…」
「ん…兄さん?」
ニールはライルをそのまましっかりと抱きしめ、首筋に頭を擦りつける。
「ほんと…不安で、死ぬかと…」
「…悪ぃ…心配かけて」
「危うく交通違反で捕まるとこだった」
「…アンタのが事故らねーか心配だよ…」
ニールは暫くの間ライルを抱きしめ存在を確認し、ようやく身体を離した時にはいつも通りの兄の顔に戻っていた。
「よし、とりあえず一本飲みきれ。会社に連絡は?」
「うー。してねぇ」
ライルは半分程になったペットボトルを受け取り、ニールはライルの携帯を探す。
「ん。連絡すっから、終わったらお粥作ってやるからな」
「んー」
自分と同じ声で元気に体調不良を訴えても、会社は理解してくれるのだろうか。
そんな不安をぼんやり感じながらもライルはペットボトルを傾けた。
まぁ兄ならなんとかしてくれるだろう。
「……はい、はい。すみません、ご迷惑おかけします。よろしくお願いします。ありがとうございます」
少しこじれたが、ライルが双子だと知る先輩辺りが間に入ってくれたらしく、休みは取れた。
ニールは携帯の電源を切ると、ニコニコとライルに振り返る。
「今日は一日中ついててやるからな!」
「……兄さんは連絡したのか?」
「……あ゛」
確かに兄も社会人であるはずだ、よくわからない仕事をしているらしいが。
ニールは途端に顔色を変え、慌てて携帯を引っ掴む。
そんなニールの様子を見て、笑みが零れるくらいには、ライルは回復していた。
あれから数週間後、会社を出たライルはニールの車を見付け、訝しげに近付いた。
「よぉ!ライル、お疲れさん!」
「…なんでいんだよ?」
「迎えに来たんだよ」
「なんで、頼んでねーし」
「いいから乗れって」
渋々助手席に座り、兄に手渡されたコーヒーに口を付ける。
「あ?兄さん家行くのか?」
「んー」
「やっぱ待った。俺昨日の残り食っちまわないとダメになる」
「あぁ大丈夫大丈夫」
「なんでだよ?」
「処分しといた。食いかけ飲みかけのモンは全部。あ、楽しみにしてたなら悪ィな」
「……なに、言ってんだ?アンタ」
ニールがちらりとライルを見遣り、悪戯っ子のような笑顔を見せた。
ライルはそれだけで殆どを理解し、額に手を当てうなだれる。
「…………訴えて勝つぞ…」
「ははっ、そりゃ困る」
そして辿り着いたのはニールの家でもライルの家でもない、ライルの会社に割と近いマンションだった。
「お帰り、ライル!俺達の新居だ!」
圧倒される程広いその部屋に、ライルはただ立ち尽くす。
「……バ、ッカじゃねーの」
「お前が体調管理しっかりしないからだぞ。俺はあの日から心配で心配で眠れなかった」
「…だからって、無理矢理一緒に…」
「あ、家のモンはライルの部屋にセッティングしといたから。調理器具なんかは処分したけど」
「アンタの突拍子もない行動力にはマジで双子なのか疑うよ」
「マジで双子だよ」
ニールはライルの頬を両手で包み、お互いの瞳にお互いを映した。
「…なっ?」
「……あーハイハイ」
夏の暑さは人をおかしくする。
こんな状況も悪くないかな、等とライルに思わせる程には。
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拍手ありがとうございました!
みなさん熱中症にお気をつけ下さい…!
若干やられました…!
だるくて動けない。
ライルはあんまり汗とかかかないで、体温調節ヘタだと可愛いです。
これでもかと兄のお節介心に火をつける弟^^
心配が募りに募ってライルと無理矢理二人暮らしする兄さん^^
これで兄さんの心配事は減りますね!
ライルの会社でお茶汲みしたいです…
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