*愛する人と*
*二期後、ニール生存、パラレル設定
許せる方のみど〜ぞ
駐車場兼物置として使っている小屋から大きな物音が響き、ライルは弾かれたよ うに顔を上げた。
「…兄さん?兄さん!!」
兄がそこにいるはずだ。
兄に何かあったかと思うと背筋に寒気が走る。
慌てて車椅子を操り小屋に向かった。
途中にいくつかある段差などに転びそうになりながらも、必死になってそこへ辿 り着く。
「兄さん!っ…兄さ…」
倒れた脚立の向こうに、ニールを見付けた。
「兄さん!しっかりしろよ!!兄さん!!」
傍まで寄り、わざと車椅子を傾けて床に転げ落ちる。
這いずっていき、ニールの身体をそっと揺すった。
額を打ち付けたらしく血が流れている。
「兄さん…ぉ願っ…目、開けてくれ…!!」
いつの間にか溢れ出た涙がニールの頬に落ちていく。
パニックに陥ったライルはニールの身体を抱きしめひたすら泣き叫んだ。
「にいさ、にいさんっ!ぅあ、あっ…にいさっ…にーるぅっ…にーる、にーる!」
「……ぅ…」
微かに耳に届いた声に、ライルはバッと身体を離した。
顔を覗き込むと、ニールの虚ろな瞳と目が合う。
「ニール!」
「…い、うっ…」
「大丈夫か?!大丈夫っ…よか、よかった…生きて…」
「おれは…」
自力で起き上がったニールは額に手を当て唸った。
「兄さん、脚立から落ちたみたいで…俺、心臓止まるかと思ったんだぞ!」
「…脚立、から…」
ニールがライルを虚ろに見詰める。
そして眉を寄せ、首を傾げた。
ライルは涙を乱暴に拭いながらブツブツと文句を続けている。
次のニールの言葉に、ライルの世界は闇に染まった。
「お前さん、誰だ?」
ライルが適当に自分のこと、ニールのことを話し終えた後、リビングに気まずい沈黙が落ちる。
暫くして口火を切ったのはライルだった。
「…なにも、覚えてないのか」
「えっと…た、ぶん…。あでも、…日常とか…自分のことが、わからないだけだ 」
「名前も…俺のことも…」
ライルは拳を握りしめ、涙を堪える。
そんなライルを見てニールは慌てたように口を開いた。
「あっでも、でもな?お前さんが俺の家族だってことはわかる!だってこんなに 似てるもんな?疑いようがない…から…。……あ、の…悪い…」
ライルの溢れ出してしまった涙を見て、あまり芳しくないことを言ったと自覚し 、ニールは口をつぐんだ。
「……だい、じょぶ…きっとすぐ、思い出して、くれるよな…?」
「……あ、あぁ…思い出したい。努力するよ」
「…うん、そうだな…。悲観しててもしょうがないな」
兄はすぐに記憶を取り戻し、いつものように自分を抱きしめてくれる。
ライルはそう自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着けた。
そんなライルの雰囲気を感じとり、ニールはおずおずとライルに問い掛ける。
「ひとつ、聞いていいか?」
「どうぞ、なんでも」
「…ライル、の足…どうして…?」
「ッ…!」
ライルは息を詰め、表情を歪めた。
あんまりな質問だ。
すっかり緩んだ涙腺がまたもじくりと熱くなる。
「え?ちょ…なんか悪いこと聞いた?!」
「…じこ、だよ…事故」
「事故…?そう、か…言いづらいこと聞いたみたいで…ごめんな…」
ライルはただじっと、膝に零れ落ちる涙を見詰めていた。
「あの、兄さん。悪いんだけど…風呂、手伝ってもらえるか?」
「あ、あぁ!そうだったな!悪い悪い」
あれから数日、ニールが記憶を取り戻す様子はない。
今までニールにつききっきりで面倒を見てもらっていたせいで、ライルは生活するのにだいぶ苦労した。
記憶を失くしたニールに頼むのは気が引けてしまう。
ニールは元々お人好しの世話好きのため、嫌な顔一つせずライルの面倒を見た。
しかしそれには、以前のような甘い優しさはなく “家族”としての愛情以上のものはない。
「よい、しょっと。じゃあ、俺はもうちょっと起きてるから…お休み、ライル」
「……あぁ、お休み」
「………ごめんな」
ニールはあの日以来、寝る前に必ずこの言葉を口にしていた。
いつもくれたキスもなく、離れていく体温。
「だいじょぶ…だよ。気にすんなよ、兄さん」
「あぁ、ありがとう…」
ニールが苦しんでいることがわかるからライルは泣き出しそうになるのを堪え、ただただ祈るしかなかった。
「なんで、思い出せねぇんだよっ…!」
一人きりになったリビングで、ニールは声を荒げる。
コーヒーに映った自分を睨みつけ、自身の頭を叩いた。
「っ…思い出さなきゃ…嫌なんだ…アイツの、あの顔…あんな顔させたくねーよ …」
何も覚えていなくても、心のどこかが鋭く痛み悲鳴を上げる。
ライルが泣きそうな顔で笑うたび、自分を殺してやりたくなるほど自分に苛立っ た。
頭を掻きむしり、テーブルに額を擦りつけ悲痛な嗚咽を零す。
「思い出せねぇ…なんで…ライル、ライルッ…俺は…お前を……?」
“愛してるんだ”
「ちくしょ…う…」
残酷にも月日だけが過ぎていく。
「…なぁ、兄さん」
「…んー?」
同じベッドに入っていても、抱きしめてくれない。
もちろんキスの一つもない。
ニールにしつこく作り上げられた身体には、もはや限界だった。
兄の背中に縋り付き、額を擦りつける。
「どうした?」
「…だき、しめて…」
「え?」
「抱きしめて、キスをして…そしたら、ちゃんと寝るから…頼むよ…」
兄の身体が強張るのを肌で感じ、ライルは表情を歪めた。
「…え、と。俺が全然思い出さねーから…不安にさせてん、だよな。ごめんな… 」
「違う…そんなんじゃない、ただ抱きしめて欲しいだけなんだっ」
「…でも…」
ニールが言いたいことは嫌というほどわかる。
自分達は兄弟で、男同士で、いい歳してて…
それでも、自分達は“恋人”だったのに。
ライルはそっと身体を離した。
「……ごめん、お休み」
声もなく、静かに涙が零れ落ちる。
一度気持ちが溢れてしまえば、後はなし崩しだった。
何がキッカケだったかはわからない。
本当に些細なことでライルの我慢は限界を越えた。
「なんで!!なんで思い出さねーんだよ!!俺のことこんな風にしたくせに!! !」
「わかんねぇよ!!それにっ…こんな風にってなんだよ、何が言いたい?!」
ニールとて不安で仕方ないのだ。
毎日毎日悩み苦しみ過ごしてきたのに、いざライルに責められてしまえば怒りも する。
「俺は!アンタなしじゃ生きてけないのにッッ!!!そういう風に仕向けたのは アンタだろう?!もう嫌だっ…身体も心も、どうにかなっちまいそうだ!兄さん
!思い出してよ!!!」
ライルは腕を伸ばし、ニールの胸倉を掴み引き寄せた。
歯と歯がぶつかり鈍い音を立てる乱暴なキス。
ライルはそれでも良かった。
久しぶりに感じたニールの温もりに、心が満たされる。
「にいさ…」
「うわぁ?!」
我に返ったニールが思わずライルを突き飛ばす。
派手な音を立ててライルは車椅子ごと倒れた。
車輪がカラカラと回る音だけが、室内を満たす。
「…っ、う…」
ライルは腕に力を込め上半身を起こし、なんとか車椅子を直しよじ登る。
長い時間をかけていたが、ニールは固まったまま動けずにいた。
「はぁっ、は…………」
「ッ…あ、あ、おれっ」
「アンタの携帯に…」
「え…?」
やっと自分が何をしてしまったのか理解したニールが、青ざめながらライルに言葉をかけようとした。
だがそれはライルによって遮られる。
玄関に向かい、進んでいく車椅子。
辺りは夕焼けに染まり、室内はオレンジ色の光で満たされていた。
「登録されてる奴、誰に連絡してもすぐ駆け付けてきてくれるようなイイ奴らだ から。困ったらそいつらに頼って。それじゃあ…」
少しだけ、振り向き、兄の顔を目に焼き付ける。
「さよなら、兄さん」
初めて自らの意思でこの家を出た。
一人きりで進む道はいつもより広く見える。
「…ハハ、そうだよ、最初からおかしかった。歪んでいたから、壊れたんだ。そ ういうことだろ?なぁ…刹那…」
今も宇宙にいるであろう友人に、ライルは独り、話しかけた。
「ライ…ル…」
追おうと思えば追えるのに、ニールの足はそこにくっついてしまったかのように動かない。
苦しくなって胸を掻きむしった。
「ライル、ライルライルライルッ…い、いやだ…ライル、ライル…」
このままでは取り返しのつかないことになる。
わかっているのに、今自分が何をすべきかわかっているのに 身体が動いてくれない。
膝を折り、額を床に打ち付けた。
何度も何度も打ち付け、咽び泣く。
「う、ごけっ…動け、よっ…思い出せよ…!ライルのこと…ライルは、俺の…? …くそッ!!!」
ニールは顔を上げた。
「失いたくない…!!」
「ごめんな、潰しちまうな」
兄とよく来た場所。
奇しくも初めて来た時と季節は同じで、薄紅色のコスモスがライルを迎えてくれ た。
いつもは兄に抱かれ進んだ花の中。
車椅子でその先を目指す。
「兄さん…俺は、幸せだったよ」
潮風が頬を撫でた。
眼下に広がるのは、夕日に染められた真っ赤な海。
穏やかな波が、ライルの心を鎮めていく。
「…幸せだった…。兄さんに愛されて、必要とされて…。自由と引き換えに得た 幸せは、俺にとって大切なものだったんだ」
少しずつ車椅子を進めた。
「兄さんには…刹那達がいる。でも俺には、兄さんしかいなかったんだぜ?」
そっと唇に指を這わせ、微笑んだ。
「もう耐えらんねーよ…兄さん。兄さんの、いない世界は…。弱くてごめんな、 俺は…先に…」
風に乗り崖下に向かうコスモスに誘われるように、ライルは車椅子を進めた。
左の車輪が空に出る。
重力に従い傾く身体。
ライルはそっと瞳を閉じた。
「これで…自由だ」
「ライル!!!!!」
耳をつんざく悲鳴のような呼び声。
ライルは目を見開いた。
ガシャガシャと鈍い音を立てて車椅子が崖下に落ちていく。
ライルはただ呆然と、目の前で揺れるコスモスを見詰めていた。
「…っ、ラ、ライル?!!」
「痛っ…」
勢いよく仰向けにされ、視界を占めるのは兄の顔と真っ赤な空。
「…にい、さ…」
「ばかやろうッッ!!!!」
「っ…な、」
「なんてことしてんだお前は!!!なんで俺のこと置いてこうなんてすんだよ?!!嫌だ!!ライル、ライル!!行くな、行かないで…!!!」
ニールの涙が頬に落ち、ライルは目を細めた。
ニールは崩れるようにライルの上に倒れ、肩口に顔を埋めて言葉にならない叫びを上げながら泣き喚く。
「ごめん、ごめんなさい、らいる、らいる…ごめんなさい…俺は、忘れて…」
「兄さん…もしかして、記憶が?」
「もど、もどった…う、ううっ…おま、えがっ…落ちそうなの、見たら、ぶわって、洪水みたいに、思い出し、てっ…うぁ、あう、ライッ、ル…」
「…そ、か…思い出したんだ…」
ライルはそっとニールの頭を撫でる。
おずおずと顔を上げたニールの瞳に映ったのは、涙を流すライル。
「兄さん、情けねー顔…」
「おまえだって、おんなじ顔、だろっ」
「ハハ、そうだな、俺達双子だもんな」
「…ライル…」
ニールはライルの涙を指先で拭い、キスをした。
柔らかく、優しい優しいキスに、ライルの涙は溢れて止まらない。
「っ、く、ひう…にいさ…おれ、にいさんっ…」
「あぁ、ごめん、ごめんな…。全部覚えてる…最低なことばっかして、お前を傷つけて…許してもらおうなんて思わない。でも、でもせめて、生きていてくれ…
!」
「俺はっ、兄さんの傍じゃないと、ダメなんだ!」
「ライル…?」
「兄さんがいないと生きていけない、兄さんがいるから俺は生きてるんだ!だからお願い、俺を独りにしないでくれ…ッ」
「…バカ、だなぁライルは…。俺だって、ライルがいなきゃ、死んじまうのに… 」
どちらからともなく唇を合わせ、息を奪い合う乱暴で情熱的なキスを交わす。
お互いが生きているのだとわかるように、何度も何度も貪り合った。
「なぁ、ライル…」
「…ん?」
すっかり辺りは暗くなり、頭上に広がる満天の星空の下、二人は寄り添う。
「約束しよう」
「約束?」
「今度もしこういうことがあったり、どちらかが先に逝ってしまうようだったら …二人で一緒に、死にたい」
「……一緒、に…」
「俺はライルを殺すよ…だから、ライルは俺を殺してくれる?」
ライルは足を撫でる兄の掌に自身の掌を重ね、強く握った。
「わかった」
「…ありがと、ライル。二人でずっと一緒にいような…」
「あぁ…」
生まれた時も、死ぬ時も、二人一緒だと
夢のような約束を、二人は星空の下で交わした。
煌めく2つの流星が、海に堕ちていく。
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まさか書くとは思っていなかった続編です(笑)
キリスケが超絶リスペクトな某サイトの管理人様に素敵なネタをいただきまして…!
「記憶喪失兄さんとライル」で
ライルがちゅうしようとしてびっくりした兄さんに突き飛ばされちゃうとか!
もっとこう、素晴らしいネタだったんですけど…!
すいません私の力量ではこの程度にしかっ…orz
ほんとこの二人には死んでも幸せでいてほしいですね!
二人の望む幸せな死に方をね!
これで狂愛シリーズは完結…かな!
もうキリスケにはネタがないです(笑)
かわいそうなライルと狂った兄さん大好きだっ!!!(←人でなし)
ネタ提供ありがとうございましたあああ!!!
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